GYZE オフィシャルインタヴュー第1弾 by 土屋 京輔


ついにリリースされたGYZEの最新作『NORTHERN HELL SONG』。そのタイトルやジャケットのアートワークは、彼らが結成された北海道をイメージさせるが、楽曲そのものも、バンドとしてのアイデンティティを見事なまでに提示している。
Ryoji(vo&g)、Aruta(b&vo)、Shuji(ds)は、各方面から絶賛の声が上がっている、この強力なアルバムに向けて、いかなる歩みをしてきたのか、そして何を考えていたのか。ヨーロッパ・ツアーに遠征する直前、3人にじっくりと話を聞いた。
初めて明かされる事実を含め、語られた言葉の数々からは、GYZEを通じた彼らのパーソナリティも見えてくるだろう。今回はその貴重なインタビューの第一回目をお届けしたい。
取材・文●土屋京輔 イラスト● NAIMEIIEMIAN
――まずは『NORTHERN HELL SONG』が完成した今の気持ちから伺いましょう。もちろん、かなりの手応えを感じているとは思いますが。
Shuji:3枚目のアルバムということで、世間一般の評価が一番されるようなタイミングですけど、よりGYZEらしさが強くなった楽曲たちが集まった、最高傑作の1枚になったと思ってます。心から、嬉しさと楽しさがこみ上げてきますね。
Aruta:リリースまでには、予定よりも結構時間がかかってしまったので、その分、僕らも早く発表したかったし、早く人前でやりたい気持ちがすごく強くなっているんですよ。もちろん、最高傑作であるのは当然として、それに伴ってライヴも絶対に凄くなる。ライヴ映えするアルバムだと思っているんですよ。
Ryoji:レコーディング自体は、1年前ぐらいには終わってた感じでしたからね(笑)。そのとき僕らができる、全力を尽くした作品でもあって、多分、1枚目、2枚目を踏まえた、ある種、一つの集大成でもあると思うんですよ。今まで提示してきた、GYZEとはどんなバンドなのかということが、一番わかりやすく、ダイレクトに伝わる作品になっているんじゃないかな。1年前には完成していて、今現在ではさらに成長している実感があるから、僕の性格で言っても、すぐに次に臨みたい気持ちがあるんだけど(笑)、まずは世に出せることになって、安心はしていますね。
――このアルバムに向けて、バンドとしてはどんなことを考えていたんですか?
Ryoji:さっきもArutaくんが言った通り、ライヴで映える、今後も全曲をやっていけるようなというのは意識してましたね。それに加えて、北海道で曲を全部仕上げたので、どれを聴いていても、他のバンドにはない感じ……日本的でもあるんだけど、どこか寒い土地のフィーリングのある楽曲が出揃ったんじゃないかなと思ってます。
――アルバム・タイトルからしても、それは表れていますよね。GYZEをスタートさせた北海道に、このタイミングで焦点を当てたのは、なぜだったんですか?
Ryoji:いいものも悪いものも踏まえてなんですけど、僕らはこれまでいろんな経験をしてきたんですよね。そういった中で、まず、ないものをねだっていてもダメなんだなっていうところに気がついたんですよ。憧れているという段階を越えなきゃいけないなって気持ちですね。そこで思ったのが、僕らしか知り得ない、僕らが感じているものを、もっと全面的に押し出したいなってことだったんです。前までは、単純に自分が納得する楽曲であれば、どんどん採用していったんですけど、今回はそうじゃないんですよね。聴き手に僕らがどんなバンドなのか、はっきりと伝わる曲。もちろん、それは世界の人たちに発信できるようにという意味でね。そこはやっぱり、海外とかでの経験が、強く影響されていると思います。
――特に2015年はCHILDREN OF BODOMなどと中国を廻ったり、『LOUD PARK』でも確かな爪痕を残しましたし、昨年はドイツの『SUMMER BREEZE』、スロバキアの『MORE//THAN//FEST』といったフェスティヴァルへの出演もありました。国外での活動については、どんな印象を持っているんですか?
Aruta:もちろん、海外に関しては、まだまだ1からだと思うんですけど、僕自身は、国外だからといって、何か特別に感じることはあまりないんです。もちろん、環境から何から国内とは違うんですけど、やることは一緒だし、どんな場所であっても、それを最大限に取り組む気持ちなんですね。
Ryoji:僕も同意見で、全ライヴがハイライトなんですね。たとえば、東高円寺20000Vで去年やった、ファンのためのイベントも最高のものだったし、すべてGYZEを伝えるということでしかないんですよね。ただ、それと同時に、一箇所でも多く、一人でも多くと考えたときには、やっぱり国外にも目を向けなくちゃならない。そのために入念な準備をしていた結果、本格的なヨーロッパ・ツアーは今年からって感じになっちゃいましたけどね。
――GYZEはもともと、世界中で活動したい思いを持っていましたよね。
Ryoji:そうですね。夢でした。だから、今は夢が叶っている段階です。
――GYZEは夢を目標にして、目標を現実にしてしまうバンドですしね(笑)。
Ryoji:確かに(笑)。ただ、今は今で、また別の夢が先に立ちはだかっているんですよね。たとえば、大きなフェスティヴァルにしても、やっぱり以前は巨大に感じてたんですよ。でも、不思議なもので、そう感じているうちには、オファーは来なかったりするんですよ。
Shuji:僕も兄二人と同じ意見で、誰の前だろうが、何人いようか、練習だろうが、スタジオだろうが、常に同じ気持ちで全力でやることを心掛けているんですね。確かに、たとえば『SUMMER BREEZE』などは新鮮味がありましたよ。でも、伝えるということに関しては、国境の壁はないと思っているんですね。ただ、ヨーロッパのフェスティヴァルに出たとき、自分たちのライヴが終わってから、ふと客席を眺めてみると、オーディエンスがすごく若かったんですよ。そのときに、こういった文化を、もっと日本にも広められたらなとは強く思いましたね。
Ryoji:ちょっと補足すると、ロケーションがよかったんですよ、特に『MORE//THAN//FEST』が。山岳っぽい感じで、自然の中で、ホントにド田舎なんです。でも、オーディエンスだけでなく、ボランティアで若い男の子とかが運営を手伝いつつ。ああいうスタイルは、僕らも自分たちの国に持って帰りたいなって憧れは抱いたかもしれないですね。実際に、来年、北海道でそういうフェスを開催できたらなと思っていて、いろんな人たちと話をしているところなんですよ。
――以前から、北海道で野外フェスティヴァルを開催したいとは言っていましたよね。
Ryoji:そうですね。まだ絵に描いた餅なんですけど、ヨーロッパやアメリカだけではなくて、アジア圏のバンドも呼んで。東南アジアとか中国とか台湾とかにも、結構いいバンドが多いんですよね。あとはロシアとか、オセアニアとかのバンドも呼べたら面白そうだし、それができるのは北海道だなと思いますしね。
――着々と新たな階段を登っていってる感じがしますね。
Ryoji:実現すればですけどね。でも、そういうのがあると、今後も楽しそうかなと。やっぱ僕ら自身が、楽しいと思うことにすごく重きを置いているバンドだと思うんですよ。音楽は音楽で、常にスキルアップしていきたいし、質も高めていきたい。それが大前提の話ですけど、結局、バンドとか音楽って何なのかって言ったときに、聴いてくれる人たちの人生を豊かにするためのものだと思うようになったんですね。もちろん、それは自分の楽しみも含めてなんですけど、僕ら自身も最高に楽しみつつ、それをリスナーと共有できなきゃいけない。そういう気持ちが、最近は強いですよね。
――そう思うキッカケもあったんですか?
Ryoji:ちょっと……もともと僕は自信のない人間なんですよ。音楽をやっていても、いつも壁にぶち当たる。人間関係も、常に障害だらけというか。だから、音楽をやっている自分は、一体何なんだろうって疑問に思うこともあったりしたんですよ。ましてや、最近のことで言えば、クラシックの譜面とかから勉強していたときに、200年も前にあんなに完成されているものを、何で今さら俺たちは掘り返すのかな、音楽って何だろうってすごく考えたんですね。しかも、今はメンバーがいて、共同体として頑張って、みんなで一つのことをしていこうとしている。そういった疑問が、夜中にふと浮かんできたんですよ。そのときに、自分で結論を導きたくて……。要は、三大欲求の中に音楽は入っていないですし、なくても生きてはいける。ということは、つまり、楽しむものなんですよね。それは何かといったら、さっきも言ったような、人生が今よりも輝くためのものっていう結論を僕の中で出したんです。そういった感覚で、僕たちは頑張っていきたいし、人間的な成長も含めて、夢を追っている姿もはっきりと見せていけたらいいなと思ってるんです。
Shuji:僕は自分を信じられなくなる瞬間が、1日に2回ぐらいくるんですよ(笑)。だから、いい意味で、毎日が転機なんです。ライヴをやらなくてこもっている時期は、収入面で悩むときも実はありましたし。でも、そこで『このままでいいのだろうか? 食っていけるようになるのかな?』なんてシフト・チェンジしちゃったら、もう負けなんですよね。とはいえ、ホントに楽しい人生とは何なんだろうと、現段階ですごく考えている最中なんですよ。その意味では、今が一番の転機ですね。でも、ヨーロッパ・ツアーでまた新たな自分のやりたいことや楽しさを見つけられると思うし、それこそメンバー間の結束も強まるだろうし、ホントの意味でやってきた意味もわかってくると思うんですよ。人として成長できる場になるだろうなと思って、今、すごく楽しみにしてますね。
いいステージをして、GYZEのプラスになるように、神輿を担げたらなっていうのは強く思ってます。
――GYZEに途中から参加したArutaくんは、加入する前後では、このバンドに対する見方も変わりました?
Aruta:変わるってことは正直ないですね。転機の話じゃないですけど、僕はわりかし寛大というか、適当な人間で、『まぁ、それはそういうふうになるだろうね』って考え方が最初に来るタイプなんですよ。だから、最初にサポートでGYZEに参加ときも、これだけデカいことを言ってるんだったら、そりゃ、こういうバンドの動き方をするでしょうよって思ったし、今もそれは特に変わっていないんですよ。
――つまり、やるべきことを、そのまま当然のように押し進めているのがGYZEであると。
Aruta:究極で言ったら、ホントにそうなのかもしれないです。その積み重ねの結果で、今の形になってますし。さっきRyojiが言ってた人間的成長というのも、このルーティンの中で勝手に育っていってるだけのものだと思うんです。
――そういう視点が、またGYZEの面白いところですよ。困難なことはそのつどあるはずですが、いろんな動きが自然体で進んでいるように見えるんですよ。
Ryoji:あぁ。そうかもしれない。
――何かを実現させるには、それなりの努力やサポートも必要になりますが、それが面白いように、上手く循環して前進している。莫大な資金力に支えられているわけでもない。こういうバンドって、とても珍しいと思うんです。
Ryoji:一つね、絶対に人に負けない自信があるとしたら、出会う人のよさがめちゃめちゃラッキーなところですよね。何か困ったなと思ったら、それを何か解決させてくれるヒーローみたいな人が、その時々に現れてくれている。バンド単位でも個人としてもね。正直、漫画になるぐらい、辛い出来事とか、ドラマティックなこともあったんだけど、すべてRPGじゃないけど、いつも新しい出会いがあって。そういうものの繰り返しが、個人的には面白く感じるんですよ。もちろん、もう子供じゃないから、時に責任を負うということすらも、僕は楽しいんですよ。「自然体」って言ってくれたさっきの言葉は、的を射ている感じがしますね。
――今は始動した頃とは違って、自分たちを支持してくれている人が、日本のみならず、世界中にいるわけじゃないですか。なぜ彼、彼女らがGYZEに惹き付けられているのか、もちろん、曲やライヴが素晴らしいというのは当然のこととして、自分たちになりに分析できることもあります?
Ryoji:それがわからないから楽しいですね。でも、雰囲気はいつも感じ取れるタイプかなと。ライヴに限りですけどね。とはいえ、曲作りをしているときなどは、別にそういう感覚ではないし、あくまでも自分たちのゴールへの答え合わせをしていきたくて、それを具現化させたい感情が第一にあるんですよ。自分の芸術をどこまで追究できるのか、それは一度たりとも満足したことがないし、一生かけてやり続ける使命だと思ってる。もちろん、そういうコンテンツありきで、ライヴに来てくれてると思うんですけど、それがなぜかということも答え合わせをしていきたいから、ライヴをしていったりもする。実際に、いろんな国で、いろんな人たちの反応を観るのもすごく面白い。昔って、僕は好かれようとか、カッコよく見せようとか、そういうことばかり優先してたんですよ。でも、ある時期から、そんなことはどうでもよくなっちゃって。カッコつけた言い方になるかもしれないけど、お客さんと一つになるというかね。そういう感覚を得るのが最近は楽しいなって。
Aruta:今、「一つになる」って言いましたけど、多分、僕らって、ライヴの中で、お客さんと会話できるバンドだと思うんですよ。こっちが盛り上がってきたら、お客さんも盛り上がってくるのが伝わってくる。どんどんそれが積み重なっていって、結果、どっちも熱くなれて最高じゃんっていう。そこがライヴにおいては、GYZEの一番の強みだと思ってるんですね。僕が初めて参加したライヴのときから、それは絶対にできてたと思います。だから凄いバンドだなぁと思って、入りもしましたしね。
Ryoji:ムラはあったけどね(笑)。悪いときって、俺は多分、カッコつけたいと思っちゃってるときだったと思うんですね、フロントマンとして。バンド全体としては、もしかしたらいいものだったかもしれないけど。
――演出の一環として、「カッコつける」ことが必要な場面もあると思うんですよ。それだけに特化して、それこそ俳優のように役を演じ切るという手法もあるわけですから。
Ryoji:あぁ。映画って、みんな台詞を言うわけだしね。
――そう。そこでいかに魅せるのか、そんなプロフェッショナルな在り方も当然あるわけですよ。
Ryoji:そのプロフェッショナルさって話で言うと、一時から、僕も決め事があるんですよ。自分の中でシナリオを作ってるから、その通りにやる。ただ、感情は感情。そういうやり方に変わったんですよね。
Shuji:俺の場合……本音を言いますね。「おっしゃ!」ってときほど、実は自分が足を引っ張ってる率は高かったんですよ。そこから考えを変えてみて、叩くようにしたんですよね。GYZEのためのドラムを叩く、俺はタイム・キーパーやって。もちろん、「ホントはもっとこう叩きたいのに!」みたいなジレンマもありましたよ。でも、いざ傍から見ると、そういう立場に徹したときのほうが、「今日はすごくよかったよ!」って声がものすごく大きくて。つまり、そこでお客さんも喜びにつながっていったわけですよね。その意味では、正直、お客さんとの会話っていうのは、ライヴをするごとにできなくなっていってるんですよ。
やっぱり、二人からの評価もすごく高かったりするんですよね。上手くなったねとか、やりやすかったって言われて。それは俺も嬉しいわけですよ、必要とされるってことだから。それが本当の喜びに変えられるようなったら、俺も一人前になれるのかなって。俺がカッコいいとするドラマーって、たとえば、トミー・リーとかだったりするんだけど、どうやったら彼のように他と異なるドラマーになれるんだろうというのは、考えたりしますね。
彼らも実際は同じように悩んだりしてきたんだと思うんですよ。「ロックじゃなくて、俺はヒップホップをやりてぇよ」って、トミー・リーも思ってたかもしれない(笑)。でも、MOTLEY CRUEのライヴを観ても、俺にはそうは映ってないじゃないですか。彼らもある時期から、お客さんと会話せずに、叩きたくねぇって言いながら叩いてたらしいんですよ。いつでも辞めたいって思ってたぐらいですしね。でも、観る側には「かっけぇ!」って思わせてる。キャッチボールはできてなくても、相手がキャッチボールしてるなって気になってもらえているのであれば、それはいいんじゃないかなって。
Ryoji:うん。俺はドラマーとしては、それは賛成なスタイルですよ。感情に左右されてグチャグチャになるよりもね。
――その屋台骨を形作るShujiの存在がなければ、GYZEの音楽は成り立たないわけですし、そこに凄さがあるわけですよ。
Shuji:そう思っていただけてるなら、嬉しいですよね。みんなにありがとうって言いたいです。でも、まだまだですから。
――そういった向上心がGYZEをステップ・アップさせてきたのは間違いないところでしょうし、ある意味ではネガティヴな感情も昇華させてきたからこそ、この『NORTHERN HELL SONG』も生まれたと思うんです。
Ryoji:そうですね。実はすでに一つのまた違う(到達すべき)山が見えちゃったんですけどね(笑)。だから、絶対にこれで終わりではないし、もっと成長したいし、現に今も曲を書いてるし。始まったばかりだって、常に思ってます。でも、「GYZEって何?」って聞かれたときには、曲単体で言ったら、「DESIRE」とか「NANOHANA」とか名曲はあったと思うんですけど……って、自分で名曲って言っちゃいましたけど(笑)、アルバムとしては、冒頭に言ったように、『NORTHERN HELL SONG』は現段階の成長中の僕らを含めた一つの作品だと思うし、この1枚を渡すのが手っ取り早いと思うんですよね。