GYZE オフィシャルインタヴュー第2弾 by 土屋 京輔
すでに多くの人が、GYZEの最新作『NORTHERN HELL SONG』に魅了されていることだろう。彼らの音楽性は、大局的にはメロディック・デス・メタルとされるものだが、本作の特徴の一つとして挙げられるのは、楽曲のヴァリエーションの豊かさだ。しかも、そのいずれもが、彼らの出自である北海道を想起させる、他にない個性をまとって仕上げられている。オフィシャル・インタビューの第2弾となる今回は、収録された全マテリアルについて、Ryoji(vo&g)、Aruta(b&vo)、Shuji(dr)にじっくりと語ってもらった。彼らの率直な言葉を受け止めながら、今後のライヴに向けて、アルバムを充分に聴き込みたいところだ。

取材・文●土屋京輔
――では、『NORTHERN HELL SONG』の収録曲について、それぞれ伺っていこうと思います。まずは1曲目の「Pirates Of Upas」ですが、“Upas”とは雪を意味するアイヌ語だそうですね。
Ryoji:そう。ホントにGYZEらしくて、どこか歌謡感が出ている曲だと思うんだけど、いろいろな経験をしてきたGYZEを一つの船とたとえて、今までのファンも、これからファンになっていく人も乗せて、出航していこうという気持ちを込めているんですね。実際にコーラス・パートもファンによるものだし、僕らだけで完結できた曲じゃない。その意味でも、オープニングに相応しい曲だと思います。
――ええ。バンド側の思いはもちろん、イントロのフレーズからしても、まさに期待感を増幅させる1曲目ですよ。
Ryoji:それは同感です。イントロは独特ですよね。細かいことを言うとね、オクターブでギターを弾いて、さらに管楽器の音を入れてるから、すごく勇ましい感じの表現ができたんですよ。それにサビですよね。海外でも言われたのが、全曲、どこを切っても、日本的なメロディってものがあるねってことなんです。それはいわゆる和という意味ではないと思うんですけど、それがGYZEならではの雰囲気になっているってね。
Aruta:僕もオープニングっぽいなぁと思ってるんですよね。最近のライヴでは、「Desire」や「Black Bride」で始まることも多いですけど、そういった曲と同じように、「やるぞ!」って気分にさせてくれるんですよ。それは聴く側も同じように感じ取ってくれるんじゃないかと思うんです。だから、僕もホントにこれが1曲目でよかったなと思ってます。でも、最初に曲順を決めるときに、これは確か1曲目じゃなかったよね?
Ryoji:当初はね、「Horkew」にしようかって話してたんですよ。意外性を突くために。
Aruta:僕も「Horkew」推しだったんですけど、今のように曲順が変わって、「すいませんでした!」って気分になりました(笑)。
Shuji:僕は1曲目はこれだろうと思ってましたね(笑)。どちらかと言うと、「Horkew」の悲しさマックスみたいなほうが、いわゆるGYZEらしい気がするんですよ。でも、「Pirates Of Upas」は攻めな感じじゃないですか。だから、俺は逆に新しいなと思ったんですよ。
Ryoji:だから、俺らも「Horkew」をすぐに聴かせたくて、2曲目に来たんだろうけどね。
――「Pirates Of Upas」から「Horkew」に入っていく流れも、とても爽快感がありますよ。
Ryoji:そうですね。「Horkew」は疾走感マックスだし。実は「Horkew」はわりとは古めの曲なんですよ。渋谷O-WEST(2014年11月26日)でのワンマンが終わった頃に書いてますね。
――そのタイミングで書いたのは、何か理由もあるんですか?
Ryoji:いや、僕の場合、曲を書くときは、ホント衝動的なんですよ。「Horkew」に関しては、GYZEとしては新しい風を吹き込んでいる曲ですね。これは今回の全曲を通して言えることだけど、寒い地域のフィーリングがある。曲そのものとは別に、思いとしてわりと伝えたいものがあるんですよね。それは何かというと、世の中にはいろんな人たちがいて、みんなが違った考えを持っている。それが時に集団になったりする。たとえば、宗教もそうだし、バンドにしてもそうだと思うんですね、オーディエンスを含めて。ただ、そこである一つの事柄を正義だとしたときに、別の正義を否定する場面っていうものが見受けられる。それを心苦しく思ってたんですよ。だから、そういう考え方は、崩壊の合図かもしれないぞっていうような意味をこの歌詞には込めてて。1曲目では「集結しようぜ!」って言っているんだけど、ここでは集結したときこそ気をつけろよっていう、警告的な曲にもなっている。そういう流れを僕の中では考えてましたね。
――時に集団が生まれると、それがよからぬ方向に進むことは、往々にしてありますね。
Ryoji:そう。人類の歴史で言うと、何か集結したときには、争いが起きている。そこに終止符を打つ必要はないかもしれないけど、一人ひとりが考えることぐらいはできるなぁと思うんですね。楽曲として、すごく気に入ってます。ギター・ソロとしては、コンペティションで優秀だったIYODA KOHEIくんが、サビのクラシカルなフレーズでハモりを弾いてくれてたり、イントロのクワイアも札幌のファンがバック・コーラスをしてくれてて。これも僕たちだけじゃ完成することのなかった曲なんですね。
Shuji:その意味でも、特別な曲に仕上がったなと思いますね。
Aruta:この曲でRyojiが言いたいことは、行き過ぎた集団心理はダメよってことだと思うんですけど、セットリストとして考えたときは、これほど盛り上がりやすい流れはないですよね。前の曲でわぁわぁ言った後に、わかりやすく、「歌ってくれ!」みたいなメロディが流れる。逆にその集団心理を煽るアッパーな流れなんですよね。
――だからこそ、GYZEとファンが一体となり、一つのよい方向へ進んでいけばいいわけですよね。
Ryoji:そうですね。だからといって、他を否定しないで欲しいというメッセージが強くあります。“Horkew”とは、アイヌ語で狩りの神や狼のことなんですけど、そういうものからの警告というふうに捉えてもらえたらいいかなと。
――この冒頭の2曲にしてもそうですが、『NORTHERN HELL SONG』には、アイヌ語が随所に出てきますよね。北海道とアイヌの関係性は誰しも知るところですが、なぜアイヌ語を用いたのでしょう?
Ryoji:去年、実際に僕はアイヌの人たちの催し事とかに足を運んでみたりしてたんですよ。誤解を恐れずに言うと、そのときに民族の違う僕とかを受け入れてくれない雰囲気も、実は感じたりしたんですね。それはパンクが好きな人がメタルを受け入れられないとか、そういったことと何ら変わらないものなんだけど、それを僕は興味深く思ったんですよ。それがキッカケですね。それこそ集団心理を描く歌詞の象徴として、何かアイヌ語をつけたいなって。もちろん、僕が生活している、馴染みのある土地の近辺の人たちの言語であり、そこをリスペクトする気持ちの提示でもありますね。
――つまり、どちらかを打ち負かすのではなく、異なる文化が共存している、健全な姿を思い浮かべているわけですね。
Ryoji:そう。それから、ちょっと後追いにはなっちゃうけど、ジャケットにある鳥居ですね。僕の考えに一番近いのは、日本古来の宗教である神道なんですよ。すべてを神として肯定する、そう捉えたものですね。その考え方は、次の「Dead Bone Blue」に出てくるんだけど、何かを否定しない、すべてを神とする、そういう日本人の文化を誇りに思いたいし、そういう気持ちは、海外に行くときも持ち続けていたいなと思うんですよね。
――その「Dead Bone Blue」は、冒頭のシンセ・サウンドから引き込まれますね。
Ryoji:Arutaくんのお気に入り曲ですね(笑)。
Aruta:この曲は、それこそ『BLACK BRIDE』が出る頃には完成が近かったよね。
Ryoji:ところがね、実はSUICIDE HEAVENのときからある曲なんですよ。当時は「Sacrifice」ってタイトルでしたけどね。アレンジはだいぶ違うんだけど。
Aruta:そうなんだ? でも、初めて聴いたときから雰囲気が好きで、僕は勝手に、GYZEの「Final Countdown」(EUROPE)的な存在になるんじゃないかなと思っていて。アリーナが似合う曲っていうんですかね。それでいて、GYZEらしさ、Ryojiらしさも失われていないし、今後、絶対に代名詞になり得るものだと思うから、PVを作ることになったときも、「Dead Bone Blue」が絶対にいいって言い続けたぐらい一押しなんです。
Shuji:とても前から聴いてきた曲なので、いろいろな思い出ですね。東京での初ライヴでやったし、初めて同期でトラブった曲でもあって(笑)。
――なぜ今回のアルバムに収録することになったんですか?
Ryoji:前からどこかで使いたいなと思ってたんだけど、タイミングを逃しちゃって。そういう曲は他にもたくさんあるんですよ。今回は北海道を推したかったし、僕が北海道に住んでいたときに書いた曲だし、それでいて……何でしょうね。結構、ビッグな感じのある曲だと思うんですよ。たとえば、僕はハード・ロックも好きだったんですけど、そういった影響を受けたロック・ギタリストらしいギター・ワークもありますし。まぁ、全体的に雰囲気のある曲なので、寒い夜とかに一人で貰えたら嬉しいです。歌詞の内容は、他の神を信じないで、自分自身を信じよう、過去を見るなというメッセージですね。
それから、“Dead Bone Blue”とは何かというと、死、骨……支笏湖ですね(笑)。あの場所の感じが似合う曲かなと思ってました。僕は釣りが好きなんで、いろんなところに行くんだけど、その土地土地でインスピレーションをもらうんですよね。ミュージシャンにはそういう人は多いと思うんですよ。たとえば、スメタナの「モルダウ」にしてもそうですよね。僕が好きな加古隆さんは、絵画のようなピアニストみたいな異名を持ってるんだけど、僕もそういうところを一つの目標としているのかもしれないですね。
――「Black Shumari」もタイトルから北海道が見えてきますね。

Ryoji:まず“Shumari”はアイヌ語で狐の意味なんですが、朱鞠内っていう土地もある。それを掛けてみたんですけど、僕がイトウを釣りに行く朱鞠内湖は、小学校の頃から通っているから、思い入れも強いんですね。なぜそこに“Black”をつけたかというと、神話の上で、黒い狐というのは、よい出来事や平和の予兆とされるものなんです。そういう望みを言い含めたかったんですよ。
曲としてはシンプルに突き進む感じであり、サビは民謡的でもあるんだけど、日本人的でもあるしっていう、何かいろいろミックスしたフィーリングはあるかなと思いますね。イントロの出だしのリフは、高校2年生ぐらいのときからずっと温めていた曲のリフの一つなんですよ。その曲はどこへも向かわずに、ただそのフレーズだけをカセットテープに録音してて、ずっと覚えてたものなんですね。それをここに来て使ったんですね。
――とすると、約10年の歴史があるわけですね。
Ryoji:そう。「Black Shumari」も曲にしたのは2014年ぐらいだから、ほぼ10年ですね。
――歌メロをなぞったようなBメロのギター・フレーズも印象的ですね。
Ryoji:ありがとうございます。僕は民族音楽系の楽譜を研究していることも多くて、普通と違ったアプローチもできたんじゃないかなと思います。
Aruta:『NORTHERN HELL SONG』を頭から聴いていると、この4曲目で初めて、今回のアルバムにおける最大の特徴にもなっている、民族的なメロディがバコンとくると思うんですよ。その意味では、一発目のフックになっているんじゃないかな。あとは「Dead Bone Blue」もそうですけど、どこかロック、ロックしい感じ、洗練されすぎてない感じがあるんですよね。特にイントロのリフはそう。ものすごく新機軸であると同時に、GYZE印であるメロディもあって……それこそリフ終わりの裏打ちになったところからね。その後にも、今までやらなかったようなリフが出てくる面白さがあって。ベース的にはこの辺からだんだん忙しくなってきて、コードがパカポコ変わる感じで、実は覚えるのが難しいです(笑)。
Shuji:僕もArutaくんとわりかし同意見で、イントロの中盤というか、始まりのメロディは強いなと思いました。それに神秘的というか、エキゾチックというか、不思議な雰囲気を漂わせる曲だなと思うんですよ。
Ryoji:このアルバムのテーマの一つが“神秘的”なんですよ。
――新機軸という言葉もありましたが、GYZEの楽曲として、まったく違和感はないですし、むしろ然るべきとも思いますよ。今回のアルバムは曲のヴァリエーションの広がりが特徴的ですが、かといって、何か無理して変わったことをやろうとしている印象はまったくない。そのスムーズさも、全体の統一感を生み出すうえで、見事に機能しているとも思うんですよね。
Ryoji:そこを理解してもらえるのは嬉しいですね。
――そして, 次が先ほどの話にも出たイトウ(Perryi)がタイトルにある「Perryi Rain Dragon」。魚に詳しい人であれば、イトウが出てきている時点で北海道を思い浮かべるでしょうね。
Ryoji:そうですね(笑)“Rain Dragon”は、朱鞠内湖がある雨竜郡のことなんですけど、雨竜って言葉が昔から好きだったんですよ。その意味合いや曲の流れ的にも、やっぱり曲順は、“Black Shumari”が来た後のこの位置だろうと。曲そのものについては、ベーシックなGYZE節がありつつなんだけど、途中に出てくる、アコーディオンによる民謡チックなフレーズがキモの一つだと思うんですね。

全開のギター・ソロもユニークだと思うし……この導入部分のクリーン・ギターは、コンペに参加してくれたNAOKI HOSHINOくんですね。メタルだけ聴いてたら作れるような曲ではないとは自負はしてます(笑)。
なおかつ、前半のタッツターってバッキングには、ホラー映画を想像させるようなフィーリングを僕は感じてて。これは雨竜地区の独特のミステリアスな雰囲気からインスパイアされてる感覚がありますね。朱鞠内湖って、朝鮮や中国からの労働者が亡くなったりもしたから、慰霊碑もあるんですよ。そこでイトウを比喩として使ったのにも理由があってね。この絶滅危惧種の魚を、何もかまわれない人、誰からも気にされない人という意味で掛けてるんです。今現在もそういう立場に置かれている人はいると思うんですね。
イトウにしても、気にするのは釣りをする人だけなんですよ。関心のない人からすれば何も価値のないもので、どんどん絶滅していっちゃう。とはいえ、保護していこうという動きは北海道にはあるので、そういう気持ちに賛同したい思いもありますし、人間社会とイトウをオーバーラップさせてる感じにも使えるなと思ったし。極めつけは最後の“誰も気にしちゃいないけど、俺は構わねぇよ(Nobody doesn’t care… But I don’t care…)”という強がりな台詞ですね。これが歌詞の意味合いを象徴しているなぁと。
ギター的な面で言うと、今回、弾き直しをあまりしないように、ソロとかも一発で録るようにしたんですよ。ホントに生々しくね。時にちょっと粗いかなと思うような部分すらも、そのまま聴いてもらいたいなって。
Shuji:メリハリがついていて、ドラム的にはとても叩いていて気持ちいいですね。何か走っているような気分になる曲かな。お気に入りの曲ベスト3の一つです。
――他の2曲はどれなんですか?(笑)
Shuji:「Brown Trout」と「Frozen Dictator」ですね。
Aruta:これはロック/メタルの王道を象徴するような曲だと思うんですよ。 “俺は俺だよ”みたいな、さっきの台詞にしてもそうですよね。楽器面で言えば、刻んでいるリフにしてもね。でも、そこにアコーディオンとかで緩急がついてて。
タイトルに関してはね、性格がひねくれてたらつけられないものだと思うんですよ。次に出てくる「Brown Trout」もそうですけど、曲名に魚の名前をつけるなんて、どストレートじゃないですか(笑)。実際に「Brown Trout」に関しては、Ryojiに「もうちょっと何かボカさない?」って言ったんですよ(笑)。でもね、それをこのままつけることって、もしかしたらRyojiの最大の強みなのかもしれないなと思うようになって。
Ryoji:その通り!(笑)
Aruta:ははは(笑)、ある種、改めて尊敬した点ではありますね。
Ryoji:知ってました? ペリー来航のペリーが発見したから、“Perryi”という英語名になってるんですよ。でもね、いつかみんなが北海道に来てもらったときに、GYZEの音楽と共に、釣りにしても何にしても、そういう楽しみもしてもらえるのだとしたら、共感の仕方としては、一つのゴールかなと思ってるんですね。この曲がその場にいかに似合うのかというのは、ホントに立ってみないと絶対にわからないはずだから。
――それがGYZEならではの曲ということにもなりますからね。
Ryoji:そうですね。その場所に行ったときに、あの曲のメロディが浮かぶなぁとか、思い出してもらえるような曲になったらなぁって。単純に憧れにも似た、作り手としての願望はあります。
――「Mayoi」は日本語の“迷い”の意味だと思いますが、叙情的な泣きのギターを聴かせるインストゥルメンタルですね。

Ryoji:そう。確か朱鞠内湖で釣りに行った後、すぐに書いた曲ですね。『BLACK BRIDE』のツアーのソロ・コーナーでも弾いたんだけど、何か自分の中に迷いにも似た、モヤっとした感情があったときに書いた曲なんですよ。だから、思った通りにそのままのタイトルもつけたんですね。
ギター・ソロも録音ボタンを押して、最初から最後までに一気に弾いたんですけど、今後、GYZEにとっては、こういうインストは特徴の一つになり得ると思ってるんですよ。
今までもインストはあったけど、アルバムに収録することはなかったんですよね。前作では「明日への光」ってアコギの曲があったけど。
音楽的には、途中で4分の3拍子になったところから、実はテンポが変わっているという面白さもありますけど、ここはメジャー展開にしてて、暗い気持ちなんだけど、頑張って明るく振る舞おうという、そういう人間の感情を表現できたらいいなとも思ってましたね。だから、聴けば“迷い”という言葉がわかるようなインストになったと思いますし、今後、尺の長いライヴでは欠かせない曲になるような気がしてます。
Shuji:僕からすると、迷ってる時期に書いたんだろうなっていうのは、すぐに感じましたね。ぜひライヴでやりたいです。超ローテンポな曲は大好きなんで。
ふと演歌を思わせるメロディですね、日本っぽさがある。
Aruta:辛いけど明るいっていうのもRyoji節ですね。前回、『BLACK BRIDE』のツアーではオケを流していたから、僕は弾いていなかったんだけど、GYZEのベーシストではなく、オーディエンスのArutaとして、何か懐かしさを覚える曲ですね。とても印象に残っている曲だったので、「ここで入れるかぁ!」とも思いました。
――「The Bloodthirsty Prince」も勢いがありますし, ミュージックビデオも撮影されましたね。

Ryoji:ホントは「Frozen Dictator」がMVになる予定だったんですけど、(所属事務所代表の)小杉さんが「The Bloodthirsty Prince」だよっていきなり言い出して(笑)。他の方からも言われたんだけど、そこでこの曲がなぜ周りのみんなから推薦されるのかなと考えたんですね。他のバンドは絶対にやってない音なんじゃないかって感じがあったり、様々な要素がミックスされた曲だとは思うんですよ。いつもの日本らしいメロディもあるんだけど、コサックっぽいフィーリングもある。ユーラシア大陸を旅しているような感じを、ちょっと狂気じみたアレンジにもしてる。その意味で、すごくオリジナリティのある曲かなと思うんですよ。歌詞については、この曲ほど意味のないものはないと思うんですけど(笑)、ただ狂ったような内容ですね。
何かセットリストとして考えたときには、「Mayoi」で仕切り直しってわけじゃないけど、曲も珍しく3分台だし、GYZEのチャレンジ的な面でのアイコンとするなら、この曲がMVというのはもっともな判断だったなと。MVもチェックしてもらいたいですね。
――リリックをつないでいく展開の仕方がGYZEらしいところでもありますが、構成はシンプルですよね、潔いぐらいに。
Ryoji:うん。何も考えないで、もう衝動でバコーンて書いちゃうような感じでしたね。
Shuji:確かにとてもシンプルで、キレイに完結された曲ですよね。まるでBEATLESの「Help!」を聴いているかのような。始まった、終わったって。
Ryoji:そうか。言われてみたら、イントロからサビだもんな。
Shuji:狂った「Help!」っていう(笑)。個人的には一番苦戦したんですよ。今までやってこなかったような感じの曲だったりしたんでね。単純なようで、難しい。MVを撮るときにも、「これ、叩けねぇよ!」って思いましたからね(笑)。
Aruta:「Mayoi」を静のインタールードと捉えたら、こっちは動のインタールードだと思っていて。「Mayoi」でポーッとなった気持ちを、いきなりアゲていって。曲順を決めるときにも、ここを境にしてA面、B面っぽくしようって話があったんですよね。新しいGYZEですっていうのがバリバリ出てて、ロックの初期衝動みたいな雰囲気もありつつ、誰もやっていないという面白さもある。その意味では、インタールードであり、ハイライトである捉えてますね。
――歌詞に意味ないという話がありましたが、どのような経緯でこの曲名が冠されたんですか?
Ryoji:直訳すると、血に飢えた貴公子ですけど、『ストリートファイター』のバルログが登場するシーンが出てくる場面のタイトルなんですよ。そこからインスパイアされました……水深3センチぐらいの深さのネーミングですけどね(笑)。「Brown Trout」は僕的に深いんですけど。
――それはまた後で伺いますから(笑)。そして次の「Kamuy」が、このアルバムのまた面白い一つの側面ですよね。いわゆるヴァイキング・ソングと言いますか。

Ryoji:そうですね。まず神秘的な雰囲気から表れたものだと思うんですけど、“Kamuy”というのは、アイヌ語で神の意味ですよね。一説には、神という日本語の語源にもなったと言われている。僕がイメージしている神というのは、自分たちが住んでいる地球の資源である、大自然などに宿るものなんですね。歌詞はそんな思いから書いているんだけど、曲としては、途中でノリと言えばノリなんだけど、ブラームスの「ハンガリー舞曲」が入りつつ、途中からオリジナル・フレーズに変わっていく。そこでの最後のフレーズが「サクラサクラ」とかで使うようなスケールなんですよね。その国が行き来する感じが、個人的にはほくそ笑むところです(笑)。それから、パッと聴いただけでは、ずっと同じフレーズかと思うかもしれないけど、よく耳を凝らしてみると、実は全パート、転調して終わっていく、ユニークな構成にもなってるんですよ。
Aruta:今の話を聞いて思っただけど、この転調は……計4回かな。もしかしたら、それが自然っぽさになってるんじゃないかなぁって。
Ryoji:あぁ、いいこと言うねぇ。四季が表れていると。
Aruta:そう。曲としては、セトリの中に入ったときのことを考えると、ホントに勇ましい、何か自分たちGYZEというものがとても大きく、雄大な何かに見えるんじゃないかなぁって。
Ryoji:野外で自分たちのフェスティヴァルをやりたいって言いましたけど、それはこの曲が理由というようなこともあるよね。
Aruta:僕もそういう想像ができているんですよ、まだ妄想、空想の域ですけど。とにかく、はい、自然です、カムイです、ドーンみたいな単純さもありつつ……。
Shuji:僕のイメージとしては、ゆっくり、ゆっくり、荒波を乗り越えていく船に乗って……パイレーツっぽいイメージがありますね。ファンタジー映画みたいな。途中で出てくるクラシックも、物語のワン・シーンのようでまた面白いなと思いましたよ。
Ryoji:歌詞の中にも、“Story of the God”って出てくるんだよね。
Shuji:そうだね。人類が忘れている、自然に対する敬意であるとか、そんな大切さを感じますね。
――カムイというのは、いわゆるアニミズム信仰のようなところもありますよね。万物に精霊が宿っているというような
Ryoji:そうそう。もしかしたら、それが僕がバンドを通して、一番伝えたいことの一つかもしれないな。
――さて、何度も話題に出た「Brown Trout」の話がようやくできますね(笑)。
Ryoji:問題作ですか?(笑)ブラウン・トラウトについて、まず話さなきゃいけないのは、外来種だということですね。ひょっとしたら、僕らがやっているメタルも、オリジナルじゃないかもしれない。西洋で生まれたものだということでね。

――タイトルだけを見ると、なぜ魚の名前をつけたのかと思う人はいると思うんですが、ブラウン・トラウトの由来を踏まえて歌詞を読み込めば、一つの比喩として用いられている重大な意味がわかりますよね。
Ryoji:まさに。今回、いろんなインタビューを受けましたけど、そのことについては一つも触れられなかったんですよ。
――そうなんですか? 「Brown Trout」は掘り下げるべき曲でしょう?
Ryoji:そう理解してもらえると。比喩なんですけど、人間って、そもそも自分で生まれてきたのかっていうところだったりするんですよ。もっと特化して言うなら、現代にも難民というものが存在しますよね。難民ではなくとも、自分は本来ここに生まれるべきじゃなかったと思っている人もいるかもしれない。
外来種であるブラウン・トラウトは、北海道にはたくさんいるんですけど、一部の人からすると、やっぱり邪魔者扱いされて、駆除の対象なんですね。ただ、ブラウン・トラウトも人の手によって持ち込まれたから、その土地にいるわけで、それがどんどん子孫を残していって、今やそこの川しか知らない生き物になっているわけですよ。ルーツなんて知るわけがない。人間にも、そういうシチュエーションはたくさんあると思うんです。だから、今、ここは自分の居場所じゃないんだと思っている人の気持ちをオーバーラップさせて、少数派だったり、虐げられている人たちの悲しみを表現したいなと思ったんですね。
この曲は、ある日、ブラウン・トラウトを釣りに行っていて、もし今日、釣れたら、敬意を表して、その日のうちに1曲作り上げようと勝手にルールを決めていたんですよ。
――“Brown Trout”というタイトルの曲を?
Ryoji:そう。多分、マスというタイトルを曲につけたのは、世界でシューベルトと僕しかいないと思ってますけど(笑)。感覚的な話で言うと、ギター・ソロのメロディには、物悲しさと、それでも希望を持ちたいというような感情が表現できたんじゃないかなと僕は思ってます。ギター・ハーモニーは、コンペに参加してくれたSDZくんですね。イメージしていた風景は千歳川なんですけど、ブラウン・トラウトが在来種より多くなっちゃって、ちょっとした問題になってはいるんですけどね。
Shuji:そのギター・ソロのイメージは自分も思い浮かべてたんですよね。だからメロディ的には、俺は一番グッときたし、さっきも言ったように、ベスト3に入る曲なんですよ。
――こういうテーマを扱いたい思いは以前からあったんですか?
Ryoji:そうですね。具体的にどうということではないんですが、何か自分の中にある疑問を、別に答えではなくても、疑問として投げかけたいというのは、この曲に限らずあるんですよ。そういうものは表れてると思います。「Horkew」然り、「Frozen Dictator」然り、自分の中にある、迷いや葛藤、出口のない問題ってものを共有したい気持ちがありますね。こういうことを通じて、たとえば外来種の問題を考えてもらえたらいいし、比喩として、あえて難民という言葉を使ったけど、それに該当するような生き方をしている人たちに問いかけたい思いもありますし。
Aruta:さっきも言ったように、タイトルはもっと比喩的なものに変えたほうがいいんじゃないかって話もありましたけど、実はこのブラウン・トラウトのほうが比喩的な表現だったという面白さもありつつ、この曲は速いくせに軽快じゃないんですよ。重いというのかなぁ。歌詞ありきで聴いているからかもしれないですけどね。「The Bloodthirsty Prince」のところで話に出たバルログっぽさを、僕はこっちに感じてて。タイトルを見ると、「Ryoji、好きなものをブッ込みましたね」って、サビのメロディを含めて捉えてたんですけど、曲を知れば知るほど、弾いてたときに感じてた違和感がわかるという。その不思議さも解決できちゃいましたね、今は。
Ryoji:読者も、CDを買って、ブックレットを見ながら聴かないとダメだと(笑)。
Aruta:そうそう(笑)。ただただ、ブラウン・トラウトというタイトルだけのアホさに釣られるなよと(笑)。
――魚だけに釣られるなと?(笑) 「Frozen Dictator」はMV候補だったのもよくわかりますが、特にイントロで惹き付けられる曲ですよね。

Ryoji:そうですね。この曲はみんなイントロ大好き(笑)。でも、何か狙ったわけではなくて、自分でもなぜこういうイントロが鳴ったのが、ちょっと不思議なぐらいなんですよ。かと思えば、そこからいきなり疾走していって、サビで和を感じるようなメロディが出てきて……その和を感じたので、そんなに前面に押し出してないけど、三味線の音がそのバックに入ってたりするんですよ。
パッと聴いて判断する人は、ミックスもフィンランドってこともあり、フィンランドっぽいねって言っちゃいそうだけど、ちゃんと聴いてもらうと、そういう要素も交えているんですよね。これもサビには札幌のファンの人たちのコーラスが入ってるんですね。以前から「Desire」の途中のワルツ調のところでは、こちらが促したわけではないのに、全員で合唱してくれたりしますけど、ギターのメロディをシンクロさせるのは、今後、GYZEが展開させていくライヴ活動において、絶対に欠かせない特別なものになっていくと思うんですよ。
歌詞については、タイトルの通りなんだけど、これはある意味、自分に対してかなと。独裁的になりがちな制作時に、自己嫌悪に陥ることも結構多かったんですね。そんな自分を独裁者として見てみようと。サビのところで歌っているのは、結局、自分が作り上げている虚像、自分の中の自分の戦争でしかないという意味合いなんだけど、どんな悩み事だったり、トラブルだったりも、紐解くと実は自分で作り上げている幻想みたいなものなんですよ。そう僕は感じているから、コントロールできない自分の感情だったりってものを、ここで体現したんです。
あとね、CDには入っていないんだけど、“氷に映った自分は俺”みたいな歌詞の一節もあったんですよ。ライヴではそう歌うのもありかなとは思ってますけど、何かに対する嫌な感情というのは、ホントに鏡みたいなものだぜということですね。独裁だと感じているものも、自分がそうしているだけだったりする。そんなメッセージが、この曲には宿ってます。
――サビに来るまでは、対外的なものに対する強烈な主張にも思いましたね。
Ryoji:そうですね。そこは広い目で不特定多数に向けたものではあるんだけど、その結果として、自分を振り返れよということですね。さんざん問題を挙げているんだけど、最終的には自分自身に問題があるのかもしれないと。これも考えてもらえればいいことで、別に答えなんてあるものではないですからね。
Aruta:「Black Shumari」もそうですけど、この曲は、ホントにどキャッチーの塊だと思っていて。特に若い子にすごく聴いて欲しいんですよ。Ryojiともよく話すんだけど、とにかく若い子たちの目標にならなきゃって思いがあるんですよ。メタルを聴く若い子って、若干、オタク寄りのことが多いと思うんですけど、こんなにカッコいいものがあるんだなと思ってもらえたら。
さらに言えば、メタルを、GYZEを聴いているオタクに、「お前らはかっけぇんだ!」って言いたいんですよ、僕は。自分に自信がない人に、好きなものを自然に受け入れられる人間になって欲しいなという思いもあってね。
――それは自分自身がオタクだからよくわかると?
Aruta:それも含めてですね(笑)。
Shuji:オタクな人に希望を持たせたいですね(笑)。曲の印象的には一番強い曲ですね。タイトル通り、氷の結晶のようにキレイで、なおかつ、複雑であるという、いろんな面を持った、とてもいい曲だなと素直に思います。でもね、オタクって素晴らしいですよ。何か熱中できるものがあるってことだから。それを馬鹿にするヤツがいたら、俺がぶん殴りに行きますよ!
Ryoji:メンバーにも、こんなに熱いメッセージを持ってもらっているのは、僕はすごく嬉しいです。
――GYZEはその熱さを世界に伝えていくバンドですからね。そして極めつけはタイトル・トラック「Northern Hell Song」ですよ。アルバムのこの位置にあるから言うわけではないですが、ライヴのクライマックスで、高らかに演奏される光景が浮かびますよね。
Ryoji:そう。これは珍しく(笑)、難産だったんですよ。だいたい僕は迷うことなく、パッパッと曲作りを進めるんだけど、最初の1分ぐらいの段階でArutaくんに展開を相談したり、メンバー全員で終わ方をどうするか話し合ったり、最後の最後まで、なかなか完成しなかったんですね。曲に関して言うと、ネタバレってわけじゃないけど、“いいちこ”感っていうんですか?
――焼酎の“いいちこ”ですか? どういう意味なんでしょう?
Ryoji:いいちこのCM感のある、日本人独特のフィーリングを出したかったんですよ。それでいて、今まで僕たちがやってきた音楽の総集編のような、ハイライト尽くしの曲にしたいなと。最初は無機質っぽく作りたかったんですよ、ただ冷気を帯びた感じの曲にね。でも、やっぱ僕らがアレンジすると、そうはならなくて、最終的にはイントロで使ったリードのメロディがメジャー展開になっていって、疑問をさんざん投げかけておいて、最後は解決させるような終わり方もしている。最後の“よい未来を一緒に見よう(Let’s see good future with us!)”って言葉が、ホントに僕たちの気持ちの表れになっているんですよね。
北の大地は、生命が生きていくには厳しい環境だということ。犯罪者は北に逃げる傾向があるという話もあるし、何か“北”にはいろんな意味が感じ取れますよね。東京の人から見ると、僕たちは北の人たちかもしれないし、日本から見た“北”というものもあるだろうし、いろんな想像が膨らむと思うんですよ。ただ、僕らのお客さんを含めて、どこのサイドに立っているかということではなく、答えはないんだけど、やはり北という言葉を使いたかった曲なんです。何か攻撃を受けるときに、俺たちは団結するのかとか、そういうフィーリングにも捉えられるかもしれないし、もしかしたら、俺たちが攻めていく側なのかもしれないし。解釈は自由なんだけど、ステージでこの曲が終わったときに、あの最後の台詞を伝えたいなって。
――要はGYZEの歌であると受け止めてもいいですよね?
Ryoji:そう捉えてもらってもいいし、僕たちが聴く北からの歌として捉えてもらってもいいし。まぁ、メタル・カルチャーはどこから来たのかっていう想像も膨らむと思うし、答えはあえて濁したいというところかな。わかりやすく言うなら、僕らが歌うから“Northern Hell Song”だよっていうのが、すごくストレートなアンサーの一つかなぁとは思います。でも、「Pirates Of Upas」から始まって、最後にこの歌で締め括るのは、すごくしっくりくるなぁと、アルバム単位としても思いますね。
Shuji:まぁ、ラストの曲になるべくしてなったと思いますね。アルバムを完結する曲としては最適だなと。
――GYZEがやっているからこそ、このタイトルにも説得力があると思いますよ。
Ryoji:実際、僕らがいる札幌でも、ヨーロッパよりも積雪は多かったりするんですよ。地理的に独特な場所なんだと思うんですよね。たとえば、津軽海峡には、ブラキストン線という、生態系を区分する境界線があるんですよ。実際にその北と南では動植物もまったく違うし、僕らは北海道と本州には何もかも違いを感じるんですよね。
Aruta:大本を作ったのはRyojiですけど、珍しく3人の意見で積み重なった曲なので、今のGYZEの集大成とも言えますけど、僕からしたら、出発点、ある種、スタートにも捉えられるものなんですね。ここからのGYZEの活躍にご期待ください、また次に凄いことをやるからねってことは、どうしても伝えたいです。
Ryoji:音楽は人生を豊かにするものであり、僕らだけじゃ解決できなくて、全員が必要だというところで、「答えはない」ってさっきから言ってるけど、それでも最後に僕らが答えを一つ提示するなら、いい未来を作っていきたいなって、そこに尽きると思うんですよね。だから、あえて“頑張る”という言葉を使いますけど、言うだけではなく、頑張って一人でも多くの人に伝わっていくような行動で、どんどん示していきたいんですね。実際にヨーロッパ・ツアーも始まるし、日本ツアーも始まるし。
――やはりこの最後の台詞が、このアルバムの意味合いを象徴していますよ。
Ryoji:そうですね。どうしても、そういう言葉を収録したかったんです。途中、衝動に身を任せて叫んでいる、歌詞には載せていない日本語の台詞もあるんですけど、聞き取れないぐらいにとどめてあるんです。わりと悪役としての言葉をあえて日本語で言っているんですね。それが僕たち目線なのか、そうではないのか……とてもじゃないけど、いい未来を作ろうと言っている人間が言うような台詞じゃないことは確かなんですよ。でも、ライヴでは全員でこの曲を歌ってもらって、最後にその台詞を言ったとき、このアルバムのツアーは締め括られるんだろうなという、現実になり得る理想は勝手に作ってますね。
――「Northern Hell Song」がエンディング・トラックではありますが、その後に「Snow〜Upas」なるインストゥルメンタルが入っているんですよね。

Ryoji:そう。この曲のサビに当たるパートのメロディが、「Pirates Of Upas」のサビの大本で、ほとんど一緒のメロディなんですよね。「Snow〜Upas」が終わって、また「Pirates Of Upas」を聴き始めたら、また違った解釈もあるんじゃないかなって。そこまでは幻想的に終わる、アルバムっぽさを念頭に置いていましたけど、ボーナス・トラックがその後にドカンときちゃうんですけどね。
――そのボーナス・トラックの「Moonlight Sonata」は、ベートーヴェンの「月光」としてよく知られていますが、しばしば採り上げられるピアノの3連フレーズではないのも面白いですね。
Ryoji:そうですね。ピアノを練習したくて、譜面を見ながら音をとっていたときに、ギターでやってみようかなと思ってたら、ついつい熱中しちゃって、作っちゃったみたいな(笑)。やっぱりメタルって、技巧的な面がピックアップされることも多いですけど、僕たちの音楽家として力量を見せる意味もあるし、音楽の歴史において重要な役割を担った人へのリスペクトの意味もある。これは弾くだけでも難解だったんですけど、今回は歌も入れてますからね。こんなことは、絶対に僕ら以外にはやらないだろうし。歌詞はベートーヴェンの名言とされているものを引用したんですよ。人が人に対して卑屈になるのが嫌だっていう意味合いなんですけど、その台詞って、このアルバムを象徴してそうなフレーズでもあるんですよね。今後、ライヴでもやっていきたい曲の一つなんですよ。
Shuji:僕もぜひやりたいです。すごく練習に力を入れてるし、時間も費やしてるし。まず構成も難しいし、練習にもってこいの曲なので、これからバンドで上手くなりたい人は、挑戦してみる上達するんじゃないかなと。
Aruta:でも、やればできるってことを、改めて思った曲ですね。突然、「明日までにベースを入れて」って、Ryojiから送られてきたんですよ(笑)。まじかよって思いつつ、何とか仕上げることができたので、そこは自信になりましたね。あとは、Ryojiもそうだけど、僕も譜面を作ったんですよ。それを何らかの機会に発表して、ぜひみんなにもやってみて欲しいんですね。Shujiも言っていたように、バンドでやったら、音が固まるコツが掴めると思うんですよ。
Ryoji:ワンランク上のことを目指したいなら、もってこいの譜面だと思うしね。俺らのやっている音楽で言えば、革新的と言ったら大袈裟だけど、すごくユニークだろうし、弾き応えも十分にあると思うから。
――さて、3月上旬から4月上旬にかけては、35公演のヨーロッパ・ツアーがあり、帰国後は国内ツアーも決まっています。今、どんな思いがあるのか、それぞれ聞かせてください。(このインタヴューが行われたのはヨーロッパツアー直前)
Aruta:これまでにない規模で、いろんなところを廻れるチャンスを得た、そのこと自体、まずありがたいと思っているんですね。その分、GYZEを好きになってくれる、聴いてくれる人の分母は増えると思うので、GYZEを聴くことは、カッコいいことなんだって素直に受け入れてもらえるショウにしたいですね。
Shuji:EUツアーは、今まで経験したことのない、毎日がライヴというスケジュールで、ヘタしたら人生でやってきたライヴの数よりも多いんじゃないかってぐらいの規模ですけど、まず僕らのよさを知って

もらえる機会にしたいですし、人としてもバンドとしても、何かしら新しい何かが見つけられるんだろうなって期待がありますね。もちろん、それを踏まえて行われる国内ツアーでも、得られるものがあると思うんですよ。
Ryoji:僕は高校を卒業する頃に夢だったのが、世界を一周することだったんですよ。でも、そのときしなかった理由というのも実はあって。何者かでない自分が世界一周したところで、何の意味もないと思ったんですよね。そのためにはどうするかと考えたとき、バンドを頑張ったらそれが可能だなと思ったんですよ。そして実際に今、数週間後に夢だったことが、目の前で現実になっていく。でも、自分たちは全然浮足立ってなくて、現実のものとして受け止められるんですね。だから実際に僕らは、EUツアーに関しても、確実に現地のファンを作っていくことに焦点を当ててるんですよ。多分ね、これからは、そういうことをどんどん繰り返していく人生になるんだろうなと思っていて、それの出発点のような気がしているんですね。
国内ツアーも、最初にも言ったように意識の違いはまったくないんですよ。でも、去年、SOILWORKと東名阪を廻って以来になると思うから、久々にできることがまず嬉しいし、もっと数をどんどんやっていきたい意気込みもあるんですね。ただ、数年前と決定的に違うことがあって。何かというと、以前は、東京のライヴに関して、キャパ上げ戦争みたいな雰囲気を感じてたんですよ。このキャパの会場が終わったら、次はこのキャパの会場だみたいな。でも、どこでやるかなんて、自分たちの都合でしかないじゃないですか。それよりもどういう熱度で、どんなことを伝えていくか、それをどれだけ多くの場所で多くの人に伝えていくか。そこにすごく価値を置くようになってきたんですね。今回も確信にも似た予感のようなものを感じてて。
同時に、これから僕たちは、2020年までのドキュメンタリーを撮っていく映像プロジェクトを始めるんですね。日常を含めて。そのゴールって何かと言えば、世界のロック・フェスティヴァルのメイン・ステージに立つだけじゃなしに、ヘッドライナーになることなんです。今はすごく巨大に感じてますよ。でも、かつては想像すらできなかったものでも、無我夢中にやってたら、いつの間にか実現していることもある。すごく不思議なものだなぁと思ってるんですよ。今はまた新たにバンドとしての目標を掲げて、どんどん公開して、シェアしていきたいんですね。大それたことじゃなくても、何か諦めかけていた人が、そういう僕たちの様子を観て、奮起するキッカケにもなったら、すごくいい関係性だと思いますし。そういうことを形にしていきたいし、今回のツアーもそうだし、その先も含めて、もうライフスタイルと言っていいぐらい、日常のこととしてGYZEの活動を捉えるようになってるかな。
GYZE 映像プロジェクト
――つまり、繰り返しになりますが、「Northern Hell Song」の“俺達と一緒にいい未来を見ようぜ”って言葉に集約されますよね。
Ryoji:うん。まずは自分で望まないと、そういう未来は手に入らないですからね。自分で作り上げいくという気持ちを忘れないでいてもらいたいし、自分たちもそう思っているし。僕もすべてが未熟なわけじゃないですか、言うなれば。でもね、最近、日々の自分の成長していく過程が楽しんですよ。
タイトル:Northern Hell Song(ノーザン・ヘル・ソング)
レーベル:Virgin music / Thunderball667 (Universal Music Japan)
品番:UICN-1089
発売日:2017.3.29
価格:¥2,500(税抜)
☆タイトル表記に関する補足
Upas(ウパシ)=アイヌ語で雪
Black Shumari=黒キツネ(黒キツネは平和の象徴)
と写真の撮影地である朱鞠内(シュマリナイ)
Kamuy = 神
Horkew = 一般的にはオオカミまた狩りの神
Rain Dragon = 雨竜郡(朱鞠内湖のイトウいる地域)
Mixed and matered by Ahti Kortelainen
